
エレキギターのサウンドを語るうえで欠かせないのが「ディストーション」、つまり“歪み”です。今やロックやメタル、パンクなど多くのジャンルで当たり前のように使われるこのサウンドは、実は偶然と実験、そしてギタリストたちの情熱によって生み出されてきました。
ディストーションの起源は偶然から
エレキギターが誕生した当初、ギターの音色はクリーンで澄んだものでした。しかし、バンドの音量が大きくなるにつれて、ギタリストたちはより存在感のあるサウンドを求め、アンプのボリュームを上げるようになります。1940年代後半から1950年代にかけて、真空管アンプを大音量で鳴らすと、回路が過負荷状態になり、音が自然と歪む現象が発生しました。これが「オーバードライブ」と呼ばれる歪みの始まりです。
この時代、誰が最初に意図的に歪みを使ったのかははっきりしていませんが、ジュニア・バーナードのようなギタリストが、すでにアンプを歪ませたサウンドで活躍していました。また、1951年にはプロデューサーのサム・フィリップスが、偶然歪んだギターの音色をそのままレコードに残したことで、「ロケット88」という曲に独特の歪みサウンドが刻まれました。
意図的な歪みへの挑戦
やがてギタリストたちは、さらに強烈なディストーションを求めて、アンプのスピーカーに物理的なダメージを与えるという荒業に出ます。リンク・レイはスピーカーに鉛筆で穴を開けることで、重く荒々しい音色を作り出し、1958年のインストゥルメンタル曲「ランブル」で大ヒットを記録しました。この曲は、当時としては異例の暴力的なサウンドで、ラジオ放送が自粛されるほどのインパクトを持っていました。
1960年代に入ると、ザ・キンクスのデイヴ・デイヴィスもスピーカーにカミソリで切れ目を入れ、名曲「ユー・リアリー・ガット・ミー」の特徴的な歪みサウンドを生み出しました。こうした物理的な方法は、ギターの音色に革命をもたらしましたが、アンプやスピーカーを壊すリスクも高く、よりスマートな方法が求められるようになります。
エフェクターの登場とディストーションの普及

転機となったのは、1961年にグレイディ・マーティンが偶然アンプの接続ミスで生じた歪みサウンドを「ファズ」として録音し、それをエンジニアのグレン・T・スノーディが分析、意図的に歪みを生み出す「ファズ・ボックス」(ファズ・エフェクター)を開発したことです。この装置の登場により、ギタリストは足元のスイッチ一つで歪みサウンドを自在にコントロールできるようになり、演奏の幅が一気に広がりました。
その後、オーバードライブやディストーション、ファズといったさまざまな歪みエフェクターが登場し、ギターサウンドはより多彩に、より過激に進化していきます。1963年にはマーシャルのJTM-45アンプが登場し、ハードロックやヘヴィメタルの象徴的な歪みサウンドを確立しました。
ディストーションがロックの象徴へ
こうして生まれたディストーションは、ロックのサウンドを決定づける要素となり、ジミ・ヘンドリックスやジミー・ペイジ、エディ・ヴァン・ヘイレンといった伝説的ギタリストたちによって世界中に広まりました。今やディストーションは、ギターの表現力を飛躍的に高める“魔法のエフェクト”として、ジャンルを問わず愛され続けています。
まとめ
エレキギターのディストーションは、偶然の発見とギタリストたちの飽くなき探究心から生まれ、技術革新とともに進化してきました。今もなお、歪んだギターサウンドは多くの人々を魅了し、音楽の歴史を塗り替え続けています。