創業者のアルフレッド・ドロンジ氏
ジャズの街ニューヨークで生まれた「ギルド」
1950年代初頭、アメリカ音楽界は大きな転換期を迎えていた。ジャズが花開き、やがてロックンロールの波が押し寄せる――そんな時代、ニューヨークの楽器店主アルフレッド・ドロンジは、音楽と職人技の未来に心を燃やしていた。彼の夢は、単なるギター製作ではなく、職人たちの誇りと魂を込めた“本物”のギターを生み出すことだった。
運命の糸は、エピフォン社の激しい労働争議によって動き出す。伝統あるエピフォン工場が閉鎖され、腕利きの職人たちが行き場を失ったのだ。ドロンジは彼らの技術と情熱に着目し、「ギルド・ギターズ(Guild Guitars)」の設立を決意する。ギルド――その名は中世ヨーロッパの職人組合に由来し、手工業の誇りと連帯を象徴していた。
1952年、ニューヨークの片隅に小さな工房が誕生する。そこには、エピフォンで鍛えられた熟練の職人たちと、ドロンジの信念が息づいていた。ギルドの最初のギターは、ジャズギタリストのために設計されたアーチトップモデル。ニューヨークのクラブで鳴り響くその音色は、やがてプロミュージシャンたちの間で話題となっていく。
ウッドストックとともに――アコースティックの黄金時代
1954年、ギルドはニュージャージー州ホーボーケンへと工場を移転。さらに1960年代後半にはロードアイランド州ウェスタリーへと拠点を移す。この時代、アメリカはフォーク・リバイバルの熱気に包まれていた。ウッドストックの伝説的なステージで、ギルドのアコースティックギターはジョン・デンバーやリッチー・ヘブンスといったアーティストの手で鳴り響き、その名声を不動のものにする。
ギルドのギターは、単なる楽器以上の存在となった。職人たちの手仕事による堅牢な造り、美しい木目、そして豊かな響き――それらは、アメリカの音楽史に深く刻まれていく。エレキギターの分野でも、バディ・ガイやブライアン・メイといった名手たちがギルドを愛用し、その個性的なサウンドは多くのファンを魅了した。
試練と再生――ギルドの魂は消えない
1972年、創業者アルフレッド・ドロンジが航空機事故で急逝する。音楽シーンはエレクトリック、さらにはシンセサイザーへと主役が移り、アコースティックギター業界は冬の時代を迎えた。ギルドもまた、経営の波に翻弄されることとなる。
だが、ギルドの魂は消えなかった。職人たちの手によるギター作りの伝統は守られ続け、幾度もの買収や経営危機を乗り越えてきた。21世紀に入っても、ギルドはアメリカン・ギターの象徴として、アコースティック、エレクトリック、ベースギターの分野で高い評価を受け続けている。
伝統と革新のはざまで
ギルドの歩みは、まさにアメリカ音楽史の縮図だ。時代の波に揉まれながらも、職人たちの誇りと情熱がブランドを支えてきた。ギルドのギターには、創業者ドロンジの夢と、エピフォンから受け継がれた職人魂、そして数多くのミュージシャンたちの物語が詰まっている。
今もギルドのギターは、世界中のステージで、リビングルームで、夢を奏で続けている。音楽を愛するすべての人に――ギルドは、職人たちの絆と誇りを伝える“ギルド(組合)”の名に恥じない、唯一無二のギターブランドなのだ。