コンテンツにスキップ
ja
日本 JPY

アコースティックギターと倍音の秘密

on

アコースティックギターの魅力は、その豊かな響きと奥深い音色にあります。この「美しい響き」の正体を探っていくと、必ずたどり着くのが「倍音」という現象です。倍音は、ギターの音色を決定づける最も重要な要素のひとつであり、楽器ごとの個性や演奏者のタッチの違いまでも生み出しています。

倍音とは何か

ギターの弦を弾くと、私たちは「ひとつの音」を聴いているように感じます。しかし実際には、その音の中には「基音」と呼ばれる主成分に加え、さまざまな高さの「倍音」が同時に含まれています。倍音とは、基音の整数倍の周波数を持つ音のことです。たとえば、5弦開放A(110Hz)を鳴らすと、その2倍の220Hz(1オクターブ上のA)、3倍の330Hz(さらに上のE)、4倍の440Hz(2オクターブ上のA)といった具合に、整数倍の周波数を持つ音が自然に発生します

この倍音は理論上、無限に発生しますが、人間の耳で聴き取れるのは8倍音(3オクターブ上)くらいまでとされています。倍音は個別の「音」として認識されるのではなく、音色や響きの「厚み」「明るさ」「柔らかさ」といった印象を形作る役割を果たしています。

倍音が生まれる仕組み

ギターの弦は、ナットからブリッジまでの全長で「基音」として振動しますが、同時に1/2、1/3、1/4…といった分割点でも振動しています。これが倍音の正体です。弦の振動は、ギターのボディに伝わり、木材や空洞部分で共鳴することで、さらに倍音成分が強調されたり抑制されたりします

アコースティックギターの場合、ボディの形状や材質、サウンドホールの大きさ、ブレイシング(響棒)の配置など、あらゆるパーツが倍音の出方に影響を与えます。たとえば、ボディの容積が大きいほど低音域の倍音が豊かになり、ブレイシングの高さや配置によって音の硬さや柔らかさ、倍音のバランスが変化します

倍音とギターの音色

倍音が音色に与える影響は絶大です。たとえば、倍音が豊かでバランスよく含まれているギターは「きらびやか」「艶やか」「奥行きがある」といった印象を与えます。逆に倍音が少ないと、音が「素朴」「やや平坦」「輪郭がはっきりしない」と感じられることもあります

楽器ごとに倍音の出方が異なるため、同じ音程でもギターとピアノ、バイオリンではまったく違う響きに聴こえます。これは、各楽器の構造や素材が倍音の発生や共鳴に独自の影響を及ぼすためです。また、同じギターでも、弾き込まれて木材が振動しやすくなると倍音がより豊かになり、ビンテージギター特有の「鳴りの良さ」や「深み」が生まれるとも言われています

倍音を活かした演奏テクニック

ギターには倍音を意図的に強調する「ハーモニクス奏法」があります。弦の特定のポイント(12フレット、7フレットなど)に軽く触れて弾くことで、基音を消し、倍音だけを響かせることができます。このクリアで幻想的な音色は、倍音の存在を実感できる代表的なテクニックです。

さらに、ピッキングの位置や強さ、弦の太さや材質、ピックや指の使い方によっても、倍音のバランスは大きく変化します。繊細なタッチや工夫次第で、同じギターから多彩な音色を引き出せるのも、倍音の奥深い世界ならではの魅力です

まとめ

アコースティックギターの美しい響きは、「倍音」という物理現象と、ギターという楽器の構造、そして演奏者の感性が織りなす奇跡といえるでしょう。倍音を意識してギターを弾くことで、より豊かな表現力と、自分だけの音色を追求できるはずです。ギターの響きに耳を澄ませば、そこには無限の倍音が織りなす“音の宇宙”が広がっています。

Related Posts

ギターの名ブランド小話:MartinとGibsonの逸話とトリビア
April 23, 2025
ギターの名ブランド小話:MartinとGibsonの逸話とトリビア

ギターの世界には、数多くの名ブランドが存在しますが、その中でも「Martin(マーティン)」と「Gibson(ギブソン)」は、アコースティックとエレクトリックの両分野で圧倒的な存在感を放ち続けてきた老舗ブランドです。それぞれのブランドには、ギター史を彩る数々の逸話やトリビアが隠されています。 Martin:伝統と革新の象徴 Martinギターの歴史は、創業者クリスチャン・フレデリック・マーティンが19世紀初頭にドイツからアメリカへ渡り、ギター製作を始めたことに端を発します。Martin社の正式名称「C.F.Martin & Co.」の「C.F.」は、創業者の名前に由来しています。現在もファミリー経営が続き、代々マーティン家が社長を務めているのも特徴です 続きを読む

エレキギター「ディストーション」誕生秘話
April 23, 2025
エレキギター「ディストーション」誕生秘話

エレキギターのサウンドを語るうえで欠かせないのが「ディストーション」、つまり“歪み”です。今やロックやメタル、パンクなど多くのジャンルで当たり前のように使われるこのサウンドは、実は偶然と実験、そしてギタリストたちの情熱によって生み出されてきました。 ディストーションの起源は偶然から エレキギターが誕生した当初、ギターの音色はクリーンで澄んだものでした。しかし、バンドの音量が大きくなるにつれて、ギタリストたちはより存在感のあるサウンドを求め、アンプのボリュームを上げるようになります。1940年代後半から1950年代にかけて、真空管アンプを大音量で鳴らすと、回路が過負荷状態になり、音が自然と歪む現象が発生しました。これが「オーバードライブ」と呼ばれる歪みの始まりです続きを読む

Drawer Title
類似製品